「節税策を何か教えて。」
「従業員を外注化すると消費税が節税になるって聞いたけど本当?」
「外注費の仕訳処理を教えて。」
今回はこんな疑問にお答えしていきます。
従業員給与は消費税不課税取引ですが、外注費は消費税課税仕入れであるため納付する消費税額を減額することができます。
そのため、従業員を外注化すると消費税の節税につながります。
令和5年10月1日からはインボイス制度が開始します。これまで免税事業者であった多くの方が課税事業にならざるをえない状況が予想されます。課税事業者とは、消費税を納める義務がある人です。
消費税は赤字でも納付が必要であり、納付金額が大きくなるため負担が大きいです。今回紹介する従業員の外注化を含め、消費税対策を進めておくことは重要です。
外注費で消費税節税
従業員を外注化すると消費税課税仕入れになるため節税になります。
消費税の節税以外にも外注化のメリットはあり、デメリットもあります。それぞれ確認していきましょう。
外注化のメリット3つ
従業員を外注化することのメリットを3つ紹介します。
メリット1:消費税節税
給与は、消費税不課税となるため売上に係る消費税額から控除することができません。
一方で、外注費は消費税課税仕入れになるため納付する消費税額を減額することができます。
従業員の外注化で消費税の節税効果があることはわかったけど、節税効果はどれくらいあるの?
具体例を用いて確認してみましょう。
日本人の平均年収は約440万円と言われています。
年間報酬額が440万円の方10名を雇用契約している場合と業務委託契約している場合でどれ程節税効果があるか比較してみましょう。
総報酬額はどちらも4,400万円(440万円×10人)です。
ちなみに「雇用契約=給与」「業務委託契約=外注」です。
契約形態 | 控除できる消費税額 |
雇用契約 | 0円 |
業務委託契約 | 400万円 (4,400万円×10%/1.1) |
平均年収の方10名で比較してみると、外注費の方が年間で400万円も控除できる消費税が増え節税になることがわかります。
人件費は金額が大きくなるため、その分節税効果は大きいです。
メリット2:社会保険料の負担がなくなる
従業員を外注化することのメリットは、消費税節税になるだけではありません。
従業員を雇用した場合、会社が従業員の社会保険料の一定額を負担することになります。社会保険料は金額が大きく、社会保険料率は近年少しずつ上昇しています。また、社会保険には税金のような節税策もありません。
従業員を外注化することで、社会保険料の負担がなくなるのは大きなメリットでしょう。
メリット3:雇用トラブルの回避
従業員を雇用していると、残業代や有休等を巡り雇用トラブルが発生することがあります。
中小企業の場合、税務よりも労務トラブルに頭を悩ます社長が本当に多いです。
雇用の場合、従業員よりも会社の方が責任が重くなります。何かトラブルがあった場合には、会社が損失を被ることがほとんどでしょう。
一方で、外注の場合にはこうした雇用トラブルが発生しないこともメリットです。
外注化のデメリット2つ
続いて、従業員を外注化することのデメリットを2つ紹介します。
1:従業員より報酬単価が高い
外注の場合、一般的に従業員よりも報酬の時間単価が高くなります。報酬額だけで考えた場合にはコスト面でデメリットとなるでしょう。
2:委託先が見つからない可能性
お願いしたい業務内容に適した委託先がすぐに見つかるとは限りません。また、緊急事態が発生した場合に対応できる委託先がない可能性もあります。業務に適した委託先がみつかっても、コスト面で折り合いがつかないこともあるでしょう。
信頼できる委託先が見つかればいいかもしれませんが、見つかるまでは委託先を探す苦労があるかもしれません。
ただ、従業員を雇用する場合も同様の問題が発生するため、外注化することの大きなデメリットとはならないでしょう。
外注費と源泉所得税
従業員に給与を支払う場合は、給与から源泉所得税を徴収する必要があります。
みなさんの毎月の給与から所得税が引かれていますよね?その話です。
一方で、外注を支払った場合には源泉徴収が必要な場合と必要でない場合があります。
源泉徴収が必要かどうかは報酬内容によって変わります。
源泉徴収が必要な報酬は、国税庁のこちらのサイト「国税庁:第5報酬・料金等の源泉徴収事務」にまとめられています。源泉徴収が必要な報酬は限定列挙です。上記サイトに記載されている報酬以外であれば源泉徴収の必要はありません。
源泉徴収が必要な報酬は、具体的には下記のとおりです。
源泉徴収をした場合には、原則として報酬を支払った月の翌月10日までに税務署に納付する必要があります。
源泉所得税の納付期限に関してはこちらの記事「2023年の源泉所得税の納付期限」で解説しています。
課税標準は税抜金額?税込金額?
外注費に係る源泉所得税は、原則として報酬の税込金額に源泉所得税率を掛けて計算します。
ただし、請求書において報酬額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、税抜金額を課税標準としても問題ありません。
このことは、国税庁のサイトでも明示されています。
ただし、報酬・料金等の支払を受ける者からの『請求書等』において、報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません。
「国税庁:インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収」
「その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません」というのが、税抜金額を基に計算しても問題ないということです。
外注費の源泉所得税は、報酬額の税込金額・税抜金額のどちらを基に計算しても問題ありません。
外注費の仕訳
外注費を支払った場合の仕訳を解説します。
前提として、外注費を11万円支払ったとします。源泉徴収が必要な報酬で、税抜金額を基に源泉所得税の計算をするとしましょう。
仕訳は下記のとおりです。
借方 勘定科目 | 借方 税抜金額 | 貸方 勘定科目 | 貸方 税抜金額 |
外注費 | 100,000 | 現金預金 | 99,790 |
仮払消費税 | 10,000 | 源泉所得税 | 10,210 |
外注費を支払った場合の勘定科目
「外注費」勘定で処理します。
外注費に対する源泉徴収税率
外注費の金額が100万円を超えない限り、源泉徴収税率は10.21%となります。よって、外注費10万円に対する源泉所得税は10,210円となります。
・100,000円×10.21%=10,210円
源泉徴収が必要な外注費を支払う場合、源泉所得税額を控除した後の金額を支払うようにしましょう。源泉所得税は国に納付が必要です。
給与との区分を明確に
外注先に業務を委託した場合、報酬内容によっては業務委託契約ではなく雇用契約とみなされる危険があります。
どちらに該当するかは、あくまで実態判断です。
税務調査で否認された場合
「業務委託契約」で処理していた外注費が、税務調査で「雇用契約」と否認された場合のリスクを紹介します。
外注費の消費税仕入税額控除は否認され、源泉所得税の徴収をしていなかった場合には源泉所得税の徴収が必要となります。
また、税金の納付が遅れた分だけ加算税や延滞税が課されることになります。
このように否認された際のリスクが大きいため、「業務委託契約」と主張できる契約にしておくことが重要です。詳細は後程解説します。
税務調査否認事例
過去の税務調査で、外注費が「業務委託契約」ではなく「雇用契約」であると否認された事例を2つ紹介します。
事例1:工事業者への外注費が否認
1つ目の事例は、平成20年4月23日に行われた裁判事例です。
発注者が電気配線工事を外注し外注費処理をしていたところ給与所得に該当すると否認された事例です。
否認理由は下記のとおりです。
・指定された勤務場所で、発注者の職員である現場代理人の作業指示を受けていた
・報酬が「日給」に従事日数を乗じた金額等から算定されていた
・発注者が材料の仕入れ、ペンチ、ドライバー等の工具を用意していた
外注の場合、報酬額は時間単位ではなく案件単位で計算されていることが重要です。また、工事に必要な材料等は外注先が用意するのが一般的でしょう。
事例2:マッサージ師への外注費が否認
続いては、平成12年2月29日に行われた裁判事例です。
マッサージ師への報酬を外注費処理していたところ、下記理由から給与所得に該当すると否認された事例です。結果として、消費税の仕入税額控除が否認され、源泉所得税の徴収を課されています。
・営業時間、服装、休憩等が発注者に定められた規則に従っている
・顧客に対する事故の責任は発注者にある
外注の場合、作業時間等は外注先が決めるのが通常です。また、事故があった場合等の責任は外注先にあるべきでしょう。
雇用契約と業務委託契約の区分
外注費が税務調査で否認された事例を2つ確認しました。
税務調査で給与所得と否認されないためにはどうすればいいのでしょうか?
国税庁は、雇用契約と業務委託契約の区分について5つの判断要素を示しています。
① 他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか。
② 報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど
時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。
③ 作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然
に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうか。
④ まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自
らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できる
かどうか。
⑤ 材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。
以下同じ。)を報酬の支払者から供与されているかどうか。
「国税庁:大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いに関する留意点について」
それぞれの判断要素に関して確認していきましょう。
なお、各要素のより詳細な説明は厚生労働省のこちらのサイト「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」を参照するといいでしょう。
➀他人が代替して業務をすることが認められる
仕事の受注者以外の人が仕事をすることが認められるか、又は受注者の判断で他の人に手伝ってもらうことが認められるかどうかの判断要素となります。
代替が認められる場合には、業務委託契約の要素を強めることになります。
また、発注者から仕事の依頼や業務指示があった場合に、仕事を受けるかどうかを受注者自分が決められるかどうかもこの要素の重要な判断材料です。
②作業時間の指定・報酬額の時間単位での計算がされていない
発注者から、勤務時間が指定されているか、また報酬額が時間単位で計算されているかの判断要素となります。
②-1:勤務時間が指定されない
勤務時間の指定がない場合、発注者と指揮監督関係にないと考えられるため業務委託契約の要素を強めることになります。
ただし、時間が指定されていても業務の性質上や安全確保の必要性から指定されている場合には、時間が指定されているために業務委託契約にならないという判断にはなりません。
②-2:報酬額が時間単位で計算されない
報酬が作業時間ではなく、案件ごとに決められていれば業務委託契約の要素を強めます。
反対に、残業をした場合に追加の報酬が支払われたり、時間給や日給など時間を単位として計算される場合には雇用関係と考えられます。
③作業方法について発注者から支持を受けない
業務の内容や遂行方法について、発注者等から具体的な指揮命令を受けていなければ指揮監督関係にないと考えられるため、業務委託契約の要素を強めます。
④業務が完了しないと報酬の請求ができない
引渡未了物件が不可抗力のために滅失した場合に、既に遂行した業務に係る報酬について請求することができない場合には業務委託契約の要素を強めます。
反対に、不可抗力で物件が滅失しても、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できる場合には、本件報酬に係る所得が給与所得に該当すると判定されるでしょう。
⑤材料等を報酬の支払者から供与されない
仕事に必要な機械・器具等を、発注者等と受注者のどちらが負担しているかの判定要素となります。
発注者が所有する安価な器具等であれば問題になりませんが、高価器具等を発注者が用意している場合には業務委託契約を弱める要素となります。
判断要素のまとめ
➀~⑤の要素を総合勘案して、業務委託契約又は雇用契約の判断を行うことになります。
各要素について表にまとめましたのでご参照ください。
雇用契約 | 業務委託契約 | |
➀他人との代替 | 不可 | 可 |
②時間の指定 | 有 | 無 |
③作業指示 | 受ける | 受けない |
④報酬の請求 | 勤務時間 | 案件毎 |
⑤材料等の支給 | 有 | 無 |
5つの判断要素の他、「委託時の選考過程が従業員採用の場合と同じ」「報酬について給与所得としての源泉徴収を行っている」「労働保険の適用対象としている」「退職金制度、福利厚生を適用している」など、発注者等が受注者を自らの労働者と認識していると推認される場合には雇用契約を強める判断要素となります。
外注費受け取り側の消費税
ここまでは外注費を支払う会社側の話をしましたが、外注費を受け取る側の消費税処理も説明します。
外注費の支払が課税仕入れになるように、受注者側では消費税課税売上に該当し、消費税率10%が報酬にかかります。
課税事業の場合には、納付税額を計算し消費税の納付が必要です。
また、令和5年10月1日からはインボイス制度の開始により、今まで免税事業だった方も課税事業者を選択せざるを得ないことが増えてくることが予想されます。
インボイス制度に関して、国税庁が公表している簡易的なパンフレットやyoutubeでのわかりやすい動画解説サイトはこちらの記事「国税庁 インボイス制度まとめサイト」でまとめています。インボイス制度について理解を深めたい方はご参照ください。
まとめ
今回は、従業員を外注化することによる消費税の節税方法をご紹介しました。
従業員の外注化にはメリットとデメリットがあります。会社の状況を考慮してどちらが有利か判断をしましょう。
外注化する際は、税務調査で給与所得と否認されないよう今回ご紹介した判断要素を基に業務委託契約を結ぶようにしてください。
こちらの記事では、高級車購入による節税対策をオススメしない理由を解説しています。合わせてご確認頂ければ幸いです。
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