・資本的支出と修繕の区分はどうすればいいの?
・どこまで修繕費に落とせる?
こんにちは。
税理士のもなた(@TaroZeikin15214)です。
今回は、こんな疑問にお答えします。
資産に係る修理改良等の費用は、全て修繕費として処理できるわけではありません。内容によっては資本的支出として資産計上する必要があります。
資本的支出と修繕費の大まかな違いは次のとおりです。
・資本的支出:資産の価値を高めたり、資産の耐用年数を延長させる支出
・修繕費:通常の維持管理、又き損した資産につき原状回復をさせる支出
実務上では上記どちらに該当するのか判断に迷う場面が非常に多いです。この記事で解説する資本的支出と修繕費の判定フローチャートを参考に区分して頂ければと思います。
■この記事を書いた人
・20代税理士
・世界4大税理士法人勤務
・税金やお金に係るお得な情報を発信
資本的支出と修繕費の判定フローチャート
資本的支出と修繕費の判定フローは下記のとおりです。図をクリックすると拡大表示ができます。
各判定フローを一つずつ確認していきましょう。冒頭に参考条文を記載し、それを基に解説するという構成で説明していきます。
判定1:災害等に伴って支出
(1) 被災資産につきその原状を回復するために支出した費用は、修繕費に該当する。
(2) 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出した費用について、法人が、修繕費とする経理をしているときは、これを認める。
(3) 被災資産について支出した費用(上記(1)又は(2)に該当する費用を除く。)の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでないものがある場合において、法人が、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、これを認める。
(注)1 法人が、被災資産の復旧に代えて資産の取得をし、又は特別の施設(被災資産の被災前の効用を維持するためのものを除く。)を設置する場合の当該資産又は特別の施設は新たな資産の取得に該当し、その取得のために支出した金額は、これらの資産の取得価額に含めることに留意する。
2 上記の固定資産に係る災害の場合の資本的支出と修繕費の区分の特例は、令第114条《固定資産に準ずる繰延資産》に規定する繰延資産に係る他の者の有する固定資産につき、災害により損壊等の被害があった場合について準用する。
「法人税基本通達 7-8-6 災害の場合の資本的支出と修繕費の区分の特例」
判定1とし、災害等によって支出した修理改良費には特例があります。災害等による支出でない場合は、判定2に進んでください。
災害により被害を受けた資産の原状回復費用が修繕になるのは明らかですが、被災前の効用を維持するために行う補強工事等も修繕費として認められるのがポイントです。
また、(注)1として記載されていますが、被災資産に代えて新たな資産を取得した場合には資産計上が必要です。
この(注)1の新たな資産の取得は、「被災資産の被災前の効用を維持するためのものを除く。」とされているのがポイントで、資産計上が必要なのは単独で効用を有する資産を新たに取得した場合になります。
つまり、被災資産の一部の取り換えに要する費用は、被災前の効用を維持するための費用として修繕費に落とすことができます。これは、国税庁のこちらのサイト「国税庁:4 復旧のために支出する費用Q6」でも記載されています。
この場合の被災資産の1単位当たりの考え方は、資産の種類ごと、かつ構造・機能が一体となっている単位で判定します。資産の種類とは建物、建物付属設備、器具備品等の減価償却資産の分類ごとに判定するのがセオリーでしょう。
また、被災資産が火災等で全焼し、新たに資産を設置する場合には資産計上が必要ですのでご注意ください。
判定2:「20万円未満」又は「3年以内の周期」
(1) その一の修理、改良等のために要した費用の額(その一の修理、改良等が2以上の事業年度(それらの事業年度のうち連結事業年度に該当するものがある場合には、当該連結事業年度)にわたって行われるときは、各事業年度ごとに要した金額。以下7-8-5までにおいて同じ。)が20万円に満たない場合
(2) その修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合
(注) 本文の「同一の固定資産」は、一の設備が2以上の資産によって構成されている場合には当該一の設備を構成する個々の資産とし、送配管、送配電線、伝導装置等のように一定規模でなければその機能を発揮できないものについては、その最小規模として合理的に区分した区分ごととする。以下7-8-5までにおいて同じ。
「法人税基本通達 7-8-3 少額又は周期の短い費用の損金算入」
判定2は、金額要件及び周期的な修理であるかの確認です。
修繕改良等のために支出した金額が20万円未満又は3年以内の周期で行われる修繕等であれば、本来資本的支出に該当するものでも修繕費として処理することができます。
該当しない場合は、判定3に進みます。
判定3:明らかに資本的支出に該当
(1) 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額
(2) 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
(3) 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額
(注) 建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。
「法人税基本通達 7-8-1 資本的支出の例示」
一 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
二 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額
「法人税法施行令 第132条 資本的支出」
判定4:明らかに修繕費に該当
(1) 建物の移えい又は解体移築をした場合(移えい又は解体移築を予定して取得した建物についてした場合を除く。)におけるその移えい又は移築に要した費用の額。ただし、解体移築にあっては、旧資材の70%以上がその性質上再使用できる場合であって、当該旧資材をそのまま利用して従前の建物と同一の規模及び構造の建物を再建築するものに限る。
(2) 機械装置の移設(7-3-12《集中生産を行う等のための機械装置の移設費》の本文の適用のある移設を除く。)に要した費用(解体費を含む。)の額
(3) 地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに要した費用の額。ただし、次に掲げる場合のその地盛りに要した費用の額を除く。
イ 土地の取得後直ちに地盛りを行った場合
ロ 土地の利用目的の変更その他土地の効用を著しく増加するための地盛りを行った場合
ハ 地盤沈下により評価損を計上した土地について地盛りを行った場合
(4) 建物、機械装置等が地盤沈下により海水等の浸害を受けることとなったために行う床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額。ただし、その床上工事等が従来の床面の構造、材質等を改良するものである等明らかに改良工事であると認められる場合のその改良部分に対応する金額を除く。
(5) 現に使用している土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用の額及び砂利道又は砂利路面に砂利、砕石等を補充するために要した費用の額
「法人税基本通達 7-8-2 修繕費に含まれる費用」
判定5:「60万円未満」又は「前期末取得価額10%以下」
(1) その金額が60万円に満たない場合
(2) その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
(注)1 前事業年度前の各事業年度(それらの事業年度のうち連結事業年度に該当するものがある場合には、当該連結事業年度)において、令第55条第4項《資本的支出の取得価額の特例》の規定の適用を受けた場合における当該固定資産の取得価額とは、同項に規定する一の減価償却資産の取得価額をいうのではなく、同項に規定する旧減価償却資産の取得価額と追加償却資産の取得価額との合計額をいうことに留意する。
2 固定資産には、当該固定資産についてした資本的支出が含まれるのであるから、当該資本的支出が同条第5項の規定の適用を受けた場合であっても、当該固定資産に係る追加償却資産の取得価額は当該固定資産の取得価額に含まれることに留意する。
「法人税基本通達 7-8-4 形式基準による修繕費の判定」
判定6:区分の特例
(注) 当該固定資産の前期末における取得価額については、7-8-4の(2)の(注)による。
「法人税基本通達 7-8-5 資本的支出と修繕費の区分の特例」
判定6は、区分が明らかでない場合の区分の特例方法が示されています。
区分が明らかでない場合には、簡便的な手段として下記いずれか小さい金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする方法が認められています。
・修理改良等に要した費用の30%相当額
・修理改良等をした資産の前期末取得価額の10%相当額
こちら継続適用が要件ですので、一度適用したら継続して同様の処理をしましょう。
判定5までで区分できず、判定6の簡便処理を適用しない場合には、修理改良等に要した金額は全額資本的支出として処理することになります。
資本的支出・修繕費の仕訳
修理改良等に要した費用が資本的支出・修繕費に該当した場合のそれぞれの仕訳を紹介します。
前提として、建物の修理改良等の費用を110万円支出したとします。
資本的支出に該当する場合の仕訳
修理改良等の費用が資本的支出に該当した場合の仕訳は下記のとおりです。
借方勘定科目 | 借方税抜金額 | 貸方勘定科目 | 貸方税抜金額 |
建物 | 1,000,000 | 現金預金 | 1,100,000 |
仮払消費税 | 100,000 |
資本的支出に該当した場合には、修理改良等に係る資産と種類及び耐用年数を同じくする資産を新たに取得したものとします。
そのため、修理改良等をした資産が建物であれば「建物」勘定で処理し、機械の修理改良であれば「機械装置」勘定で処理します。
資産を取得した場合の処理と同様の処理イメージですね。
修繕費に該当する場合の仕訳
修理改良等の費用が修繕費に該当した場合の仕訳は下記のとおりです。
借方勘定科目 | 借方税抜金額 | 貸方勘定科目 | 貸方税抜金額 |
修繕費 | 1,000,000 | 現金預金 | 1,100,000 |
仮払消費税 | 100,000 |
修繕費に該当した場合には、「修繕費」勘定で損金計上します。
資本的支出と修繕費の具体例
ここからは、具体的を用いて資本的支出と修繕費の区分理解を深めましょう。
事例1:外壁の塗り替え
外壁の塗り替えに関しては、原則的に修繕費に該当すると考えられます。
外壁塗装は金額が多額になることが多いですが、通常の維持管理や原状回復費用を超えるような費用の支出は基本的にないでしょう。
一方で、耐久性や断熱性が高い塗料で塗装した等、資産の価値を高めるような工事があれば資本的支出で処理すべきです。
事例2:雨漏り工事
雨漏り工事も、原則的に修繕費に該当すると考えられます。
通常の雨漏り補修工事であれば、外壁の塗り替えと同様に通常の維持管理や原状回復費用を超えるような費用の支出は基本的にないでしょう。
補修工事ではなく、補強工事等の建物の耐久性を増す工事が含まれていれば資本的支出での処理となるでしょう。
まとめ
今回は、資本的支出と修繕費の区分方法をフローチャートを用いて解説しました。
修繕費であれば全額損金処理が可能ですが、資本的支出に該当した場合には減価償却で損金化していくことになるため、両者の違いを理解し、修繕費で落とせるものは落とすことが節税対策につながります。
実務では判断に迷う場合も多いですが、今回紹介したフローチャートが区分の一助になれば幸いです。
下記記事では、資産の取得価額の考え方を解説していますので合わせてご確認ください。
また、下記記事では取得価額に関する「一単位当たりの考え方」を解説しています。よろしければこちらもご参照ください。
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